【インタビュー】エンジニアにとって年齢はネック?61歳ベテランエンジニアが活躍する理由とは

今回インタビューしたエンジニア
■W.Yさん
〈経歴〉
奈良県在住。前職を定年退職し、現在はトレンドのモダンな技術を駆使して活躍する61歳のベテランエンジニア。大学は農学専攻。
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農学部出身のW.Yさん エンジニアの夢を捨てきれず転身
ーーW.Yさんのプロフィールやエンジニアになろうと思ったきっかけを教えてください
W.Yさん:大学では農学部に進み、卒業後は専攻に見合った形で公務員系の就職先を選びました。
当時コンピュータ自体は卒業研究で軽くさわった程度です。昔のことで、言語FORTRANでやっていました。今では信じられないでしょうが、文字データを入力し、情報処理のために紙カードにパンチして読み取っていた時期ですね。
コンピューターソフト産業の黎明期といわれた1985年ごろは、いわゆるソフトハウス(小規模なソフト開発販売)企業が雨後の筍のように乱立していました。
「プログラマー35歳定年説」とささやかれていた時代で、大学の先生からは決してそういうところには行くなと言われていましたね。
逆に今はエンジニアの力を発揮できるのは35歳からだと思っていますが。
ーー農学部に行ったのになぜエンジニアを目指そうと思われたんですか
W.Yさん:大学は農学部に行きましたが、実際は理工系志望だったんです。
同時に受験した私立大学は理学部や工学部に合格しましたが、国公立の大学へ行ってほしいという親の意向で農学に進みました。
ただエンジニアの夢を捨てきれない自分がいたんですよね。
卒業後は一応安定した先に就職はしたものの、ウツウツしていわゆる五月病みたいになってしまって。
安定した就職先を辞めてまでほぼ未経験のコンピュータソフト業界に入るなんて、という意見はあったんですが、思い切って最初の勤務先を半年で辞めてこの業界に入りました。
年齢はコンプレックスではない 豊富な経験を基盤とした今こそキャッチアップに自信
ーー農学部に進んだのはご両親の意向もあり国立に進むためだったんですね。エンジニアの夢を捨てきれずに転職。なるほど、ありがとうございます。W.Yさんの歴史やご経験の大枠をつかめた気がしますね。
今日は年齢をテーマにお聞きしたいと思います。
実は、登録エンジニアの中にも年配でなかなか案件が決まらないとか、コミュニケーション面で困っている方が見受けられます。彼らに向けて一緒に成長できるようなお話をお聞かせいただけますか。
失礼ながらW.Yさんはお年のわりにモダンな技術のスキルもおありで、勉強熱心な方だと思っていました。そちらについてはいかがですか?
W.Yさん:時代とともに言語のトレンドも変化するので、古いところにしがみつくのではなく、その時代のトレンドを身につけていきたいという思いがありますね。そう思いはじめたのはだいぶ年齢がいってからです。いつまでも古い昔々の技術にしがみつくのではなく、新しいものにチャレンジしたいと考え、現在にいたっている感じです。
ーー正直、W.Yさんは年齢に関してどう思いますか。中には年齢で見るクライアントもありますが、W.Yさんは30代当時と今のパフォーマンスを比較して違いはありますか?
W.Yさん:結論からすると、30代の頃よりはむしろ今の方がいろいろな意味でスキルアップもしていますし、技術的には全然上だとは思っています。
唯一あるとしたら記憶力が低下していますね。とくに人の名前などが覚えにくくなって…
歌川さんみたいな特徴的な名前だといいんですが。
――そうですよね。
W.Yさん:あとコードを見る力はとくに衰えていませんが、冗長なコードを見ていて読みにくい、見にくいと思う時があります。よく考えると、コードを見る感覚がある程度研ぎ澄まされてきているのかな。
私は年齢によるコンプレックスはとくにないですね。
――なるほど、能力が上がっているというのは、具体的にコードを見る力の他に何かありますか。
W.Yさん:いろいろな新技術のキャッチアップスピードですね。
私はつい3~5年ぐらい前までは主としてJavaをやっていました。Javaができたらある程度現場に困らないという安堵感のようなものがあって。
今のトレンドのReactやNode.js、GO言語などいわゆるモダンな技術はほぼ3年ぐらい前まであまり知らなかったんです。
ちょうどコロナ禍になりまして、私も親の介護のためにリモートワークが必須な環境になって、どうしてもモダンな技術を身につけざるを得なかった。
最初は慣れない面もあってとまどいましたが、今はだいぶ慣れましたね。
とは言ってもまだキャッチアップ途上ではあるんですけど、それも苦にならない。
――とてもいいお話ですね。キャッチアップの速度はなぜ上がったと思いますか?
W.Yさん:今までふれてきた基本的な知識や技術はそう枯れないと思います。
最近の技術は今までの考え方を打ち破らなければならない面も多々ありますが、乗り越えていくコツが身に付いてきているのではないかなと。
――たとえば20代のW.Yさんと比べても、キャッチアップ能力は今と違いますか。
W.Yさん:そうですね、20代の頃はまだ技量もお粗末で、今では書かないような冗長なコードを書いていた。今はその点が磨かれていると思います。
――若い人はキャッチアップが速いと聞きます。そうであったにせよ、さまざまなご経験をされて基礎がわかっている分、キャッチアップが速いんですね。大変勉強になりました。
逆に記憶力を補うためのツールなどはありますか
W.Yさん:まさに今の案件もかなりコード量が多く、注力していたコードの箇所を一晩寝てからもう一度チャレンジするくらい苦労することがあります。アナログですが記憶力が悪くなり、参照していたコードの箇所を忘れやすいため、相対パス、おおよその行数をメモする等を心掛けています。
登録エンジニアの中でも群を抜くコミュニケーションスキル
――なるほど、メモなどで補っているんですね。
あともう一つ、うちのCTO濱田いわく、W.Yさんのコミュニケーション能力の高さは登録エンジニアさんの中でもずば抜けていると。
濱田もエンジニアですし、多くのエンジニアを見てきた中で、W.Yさんのコミュニケーションスキルは一番素晴らしく、一緒に仕事したいくらいだと言っています。
普段からコミュニケーションで気を付けているのはどのような点ですか。
W.Yさん:コミュニケーションスキルが高いと言われたのははじめてで、正直戸惑っています。
普段から気を付けていることとすると、私も理解力が高い方ではないので、なるべくわかりやすくかみ砕いて言葉数を多くして伝えるようにしています。なかなか理路整然と話せないんですが。
――コミュニケーションのスタンスはいかがですか?たとえばクライアントから指示を受ける際に気を付けている点など。
W.Yさん:クライアントの依頼で不明な点はなるべく質問しています。決して丸投げのような聞き方でなく、自分の解釈を述べてから相違がないか内容を確認していますね。
あとはテキストの文面をていねいに書くように心がけて。
――Slackの文章もとても丁寧ですよね
W.Yさん:長過ぎちゃうこともあるんですけど(笑)
――そのスタンスは年齢を重ねて築き上げたんですか。
W.Yさん:若い時は技術的にも社会経験的にも稚拙だったので、大して気をつけていなかったと思います。経験を重ねるごとにノウハウが蓄積されてきたのかな。
気負わず話せるインタビュー。サークル活動もさかんで親近感のあるアプトリー
――次に、動画とスキルシートでエンジニアさんをご紹介するアプトリーの取り組みについてお話を伺っていきます
W.Yさん:エンジニアの思いを話すインタビュー動画でクライアントに提案する企業はまだまだ少ないと思います。
年配の方からは恥ずかしいという声も聞こえてきますが、スキルシートからは見えてこない思いや信念を発信できるインタビュー動画。利用して良かった点はありますか。
過去には他のエージェントさんのお世話になったこともありましたが、話しにくくドライな印象を受ける会社も見受けられました。
アプトリーはさまざまなサークル活動もあって気負わずに仕事できる印象があり、とてもよかったと思います。
――ありがとうございます。そういっていただけると嬉しいです。
先ほどお話にもありましたが、エンジニアに限らず他の職種でも年齢を気にされるクライアントがいる状況です。
僕らは年齢に関係なく、エンジニアとクライアントが共感して働ける仕事をご紹介できたらという思いで取り組んでいます。今のお話を聞いて本当にやってきてよかったなと思いました。
自己啓発、新しい技術の習得を恐れずに
――同年代の方へのエールや応援メッセージもお聞きしたいですね。
W.Yさんのような活躍する存在になるにはどうすればいいですか。
W.Yさん:自己啓発ですね。
どうしても携わっている業務から得られるスキルや技術は限定されると思います。やっていることは身についても、新しいことに対する知識はゼロになってしまう。
トレンドになりつつある技術などは週末などの時間を当てて積極的に身に着けていきました。
かつて私もそうでしたが、大手企業に在籍していると組織の一コマになってしまいがちです。すぐに新しいことに対応できず苦労されていました。
その時にあきらめる必要はなく、そこから新しい技術を身に着けていけばいいと思います。
実は私も大手系に在籍していた時はだいぶフラストレーションがたまって、飛び出してしまったこともあったんですよ。
エンジニアとしてさまざまなことをやっていきたいと思ったら、できるだけ組織に縛られないのも一つの考えですね。決してオススメはしませんが。
ただどうしても長年いるとやっぱり思い切れない。私も飛び出してから苦労もしました。
とくにコロナが流行しはじめた2年前は、プロジェクト中断などの影響で案件数が激減した時期にあたります。私もなかなか案件を取れずに苦戦しました。
自分を守るために日頃から危機感をもってスキル習得を心掛けると、いざという時の備えになっていいと思いますね。
――ありがとうございます。新しいスキルの習得は大事ですね。
次にチームワークについてお聞きします。W.Yさんはさまざまな案件にチームとして入る際、どのようなことを心掛けていますか。
W.Yさん:まず、ひとつは教えてもらう姿勢ですね。
自分の方が遥かに年上で息子世代の方と一緒に仕事をしているんですけど、若くても優秀な方はたくさんいます。教えてもらう時は若い方に対しても謙虚な姿勢で臨んでいます。
もうひとつはチーム内のスキル感ですね。何か月か一緒に仕事をしていると、皆さんの大体のスキル感がつかめるようになって。すこし苦しんでいるなという方に対しては、積極的に1対1で参考になる記事を送ったりしてドロップアウトしないように気にかけています。忙しくてなかなか人のことまで気が回らない時もありますが、変にギスギスした空気が生まれないようにしたい。できるだけチーム全体をいい方向に運びたいと思い、心がけています。
70歳まではエンジニア現役で!!
――なるほど。ここは先ほどのコミュニケーションスキルにもつながってきますね。ありがとうございます。
そろそろ最後の質問です。W.Yさんが運動や食事など、健康のために気を付けていることはありますか。
W.Yさん:運動に関しては、30代くらいからスイミングを続けています。
以前はスポーツクラブのマスターズクラスに通っていましたが、皆さんのベースについていけなくて。親の介護があるので、今は市の施設に週1回1時間程度通っています。
長年やっている割にレベルは低く、1キロもぶっ通しで泳げるわけではありません。50m単位でもものすごく苦しくて、楽しいというより体のためと思ってやっています。
-―運動は大事ですね。では最後の質問です。W.Yさんは今おいくつでしたっけ。
シンプルに何歳までエンジニア現役を続けますか。
W.Yさん:3月で61歳になりました。ひとつ目標にしているのは70歳までと思っています。
ただ、先日80代のおばあさん(Apple CEO のティム・クックから「世界最高齢のプログラマー」と紹介されている若宮正子さん)がプログラムをまだやられていると聞いたんですよね。(注1)
――はい、いらっしゃいますね。
W.Yさん:身の回りのいろいろな事情がありつつもエンジニアを続けているのは、私にとって一つのアイデンティティだからでもあります。ひとつの目標は70まで続けることですね。
――いいですね。最後にW.Yさんからひとことお願いいたします。
W.Yさん:私自身はあまり人を蹴落としたりするのが好きじゃないんです。そうは言っても、仕事である以上仲良しクラブではいけない面もあると思うんですが、より仕事のパフォーマンスを上げるためには働きやすさが大事だと思います。
そのためにも、私自身できるだけチームの環境が良くなるように心掛けています。
参画している方全員が考えていれば、徐々に成果が上がってくるんじゃないかと思いますね。
ーーW.Yさん、ありがとうございました。
注1 引用https://logmi.jp/business/articles/325097
年配のエンジニアが活躍する理由
・ベテランエンジニアは経験値がアップし基礎固めができている。30代の頃と比較して技術のキャッチアップも速い
・自己啓発。危機管理のため古い技術に固執せず、トレンドの技術を取り入れる
・コミュニケーションを取り、クライアントの指示に対する解釈の齟齬をなくす
・若いエンジニアに対して謙虚な姿勢で教えを乞う
・チーム内のスキルアップを図り、苦労しているメンバーには1対1でサポート
・働きやすい環境はパフォーマンスが向上。チーム内の空気に配慮
インタビュアー 歌川 貴之 編集 中野 馨子